贋作師は斯く語りきα

非腐のSNS難民の心のリハビリ&漫画感想絵日記(勉強優先のため一時的に単行本派)。無断転載/無断使用/トレス/画像保存/自作発言/AI学習/等禁止。Reproducing all or any part of the contents is prohibited.Don't link.Preview only.

【アンデラ】戸塚先生へのお手紙

戸塚先生

 

アンデラアニメ化おめでとうございます。8月上旬にお便りを送ったばかりですがせっかくですので寄せ書きを送付させていただきます。人望がないのか私以外2人しか集まりませんでした(汗)

 

【この世界は謎に満ちている!】

我々人類は自然科学の発展でこの世界の理を知りつくしたかのように錯覚していますが、そもそもなぜそういった宇宙法則が存在しているのかについては自然科学は教えてくれません。哲学者サルトル的に言えば『実存は本質に先立つ』のです。またその宇宙法則に対して我々はどう対応していくべきか?という問いに対する答えも自然科学は決して教えてくれません。自然界の法則と人間としての在り方は相いれないところも多い。自然界の法則が『こう』だから我々も疑問を持たずそれに従うべきなのでしょうか?いえ、従うかどうかは私たち次第。自然の理が絶対正しいと妄信するのはいわゆる『自然主義の誤謬』です。

自然科学でこの世のことは粗方解明された?いいえ、むしろ答えの定まらない問題のほうが今でも圧倒的に多い。自然科学で宇宙の理を解明するということも大切ですが、自然科学とは別に自然科学では解決できない問題に対して私たち一人ひとりがどう対決していくべきなのかという人文学的な、哲学的な思考がこれまでも、そしてこれからの私たちには求められています。この科学だけでは解決できない問題に対する思考を養っておかないと人生のどこかで足元を掬われてしまうのではないでしょうか。

 

【アンデラというシミュレーション】

理系的思考だけでは解決できない個人の救済や論理では説明できない領域に対してどう答えを出していくかについては、過去の歴史を参照して先人の答えを参考にしたり、物語の世界で架空の登場人物たちにわざと難しい試練を与え、彼らがどのように解決していくかを見てシミュレーションするということなどが考えられます。それが歴史や物語を読むことの価値なのではないかと思います。アンデラはまさしくその意味では読み応えのある作品です。アンデラは私たちがどう生きていくべきかを探求していく上での一つの在り方を示すシミュレーションなのです。アンディや風子たちが世界の理不尽に対してどう悩んでどう答えを出したかを参考にして私たちが現実を生きるための参考になります。

 

今生きている世界自体の実在を疑え、自然の摂理や神が正しいか疑え、『常識』や『普通』を疑え、という戸塚先生のメッセージを感じます。それはまさに哲学!その哲学性に私は惹かれたのです。アンデラがシュミレーションに過ぎないなら、私たちの世界だって誰かのシュミレーションかもしれませんね?

 

【理不尽を疑え】

この世界はなぜか存在していて(そもそも本当に世界は存在しているの?)私たちも頼んでもいないのになぜかこの世界に存在(そもそも本当に私たちは存在しているの?)していることの理不尽。この世界が我々に強いる理不尽な理。

まずその理を解明するための自然科学的思考は必要ですが、理の解明だけで満足してはいけない。科学的事実とやらは時に不都合かつ残酷で、個人を救済するとは限らないからです。

不都合な真実を明らかにすることと、不都合な真実を受け入れることはまったく区別されることです。不都合理不尽なルールを押し付ける存在がいたら―もしそれが神だとしても―神や自然の定めた理だからと思考停止で従うのではなく抵抗したっていいわけです。既存の宗教の神が決めたルールが現代にそぐわなかったらその神を否定したっていいのです。最後にどう決めるかは我々一人ひとりの手にゆだねられていて、今の理不尽な世界を変えるため行動することの大切さもアンデラは教えてくれる。

 

【理系漫画に見えて実は人文漫画でもあるアンデラ】

私はかつて理系脳の方にアンディの魂に対する考え方について議論をしたところ、「非論理的だ!」と言われたことがあります。これは理系の傲慢だと思います。非論理的な出来事を説明するためにアンディは魂という仮説を立てた。魂とは非論理領域に関することなのでそもそも論理性を持ち込むことがナンセンスです。哲学者ウィトゲンシュタインは『語りえないことは沈黙しなければならない』と発言しました。この世界は論理で解決できる領域と解決できない非論理的領域があると考えました。理系が解決できるのは論理的領域のみ。それを彼は理解できなかった。理系で非論理の世界まで支配しようとするのは近代が生んだ人間の傲慢だと私は思います。

一見アンデラは理系向けの考察漫画に見えますが、よく見ると最終的には神や宗教に関する人文学的なテーマに帰結していきます。最高の死とは何か?というテーマは哲学者が古代から追い求めた人類普遍のテーマですから。キリスト教をベースにしつつ最近はやりのループに対して輪廻転生という仏教めいた可能性も示唆していて、アンディはその仏教的な仮説を採用して不滅の魂という概念を思いつき、パワーアップした。理系だけではなく、文系的思考も併せ持つことの大切さをアンディが呈示してくれた。私もアンディと一緒で自然科学的思考のみならず人文科学的思考両方持つべきだという人間なので本当にアンデラは素晴らしいなと思います。

認識の変更によって否定者はいくらでも強くなるというアンディの考え方のはコペルニクス的転回ってやつですね(笑)いくらでも強くなって輪廻転生していく姿はニーチェの『永劫回帰』と『超人』思想、この世界を外からではなく内部から把握しなければならない不都合さというのはハイデガーの『世界内存在』めいたものも感じます。

 

【アンデラが今連載されている価値】

この近現代は自然科学の発達によって人間が豊かになったという側面があるので、当然理系思考を重視する側面があります。しかし理系だけですべてを解決できるわけではない。昔オウム真理教などの新興宗教には東大卒などの高学歴や理系の学生が多く入信したという問題がありました。

『高学歴や理系がなぜ?』と世間では騒がれていましたが、私はその理由がよくわかります。学校の勉強や自然科学で習う事物は個人の救済や今自分が実存していることの理不尽に対する答えを教えてはくれなかった。その疑問を解決してくれるものが宗教しかなかった。今もカルト宗教がどうのこうのと揉めていますが、論理では解決できない理不尽に対する思考力を養う教育を行わない限り、これからもカルト宗教被害は減らないでしょう。

 

言葉や論理では説明できない難しい問題にどう向き合うのか、どう答えを出すのか、否定者たちの葛藤の過程を通して自分の人生を生ききる思考力を養うことを教えてくれるアンデラはこれからの時代に呼ばれている漫画だと感じます。

 

アンディにとっての最高の死って何なのでしょう?私はアンディがどう答えを出すのか楽しみです。いいね!最高だ!

 

P.S.

宗教は恐ろしいと思われる昨今ですが、宗教というものは本来非論理的な領域(世界が存在している理由、我々が生きる意味、死後の世界)に対する仮説のようなものです。私たちは自称霊能者やら預言者やらが言うことを鵜呑みにするのではなく、自分で悩んだ末に自分だけの仮説、自分だけの宗教を確立することが重要なのではないかなと思います。そういう意味では私は宗教を肯定したいと思います。

(アンディだって魂は不滅という宗教を見つけた!)